井上敦子 | ヴァイオリン奏者・アレクサンダーテクニーク教師

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アレクサンダー・テクニーク

アレクサンダーテクニークとの出会い(私の体験談)

更新日:2017.10.10 [Tue] |

高校の音楽科でヴァイオリンを勉強するなかでスランプに陥ったことがきっかけでした。
よいと思う練習を毎日何時間もするのですが満足に演奏できるどころか身体のあちこちが痛くなり、それとともに気持ちも落ち込むばかりで、このままでは進学以前に楽器を弾き続けることができなくなるかもしれないという危機感を持つようになりました。


ヴァイオリンの先生の指導や取り組んでいた練習そのものに間違いがあったとは思えず、自分の何かが問題なのだろうと感じていたもののその何かが分からない。うまくいかないし立ち止まることも怖い。焦りながら体力と生真面目さだけを頼りに相変わらず練習ばかりしていました。
何よりも辛かったのは、理想に向かって練習はしたいしあれもこれも弾けるようになりたいという意欲とは裏腹に楽器を弾くことが身体的にも精神的にも苦痛になっていくことでした。

そんな中、テクニークのレッスンを受けているというクラスメイトの話を偶然聞き、詳しくは分からないけれど身体や演奏に良さそうだということと、その話をするクラスメイトがとても生き生きしていたことが印象に残り、自分もレッスンを受けにいくことにしました。
今となっては笑って話すことができますが、当時は藁にもすがる思いだったことをよく覚えています。


当時の私は演奏するときにはかならず腕や脚に余計な力がはいっていて、それに気づかないほど身体の感覚はいいかげんなものでした。楽器に触れている手、持ち上げている腕、背中、上半身を支え床に立っている足などについてもほどんど意識のない状態で練習をしていました。
また、ヴァイオリンの先生の前にいるときは礼儀正しくあろうという気持ちから、また人前で弾く時には自分の一生懸命さをアピールするために知らず知らずのうちに体を萎縮させていました。


テクニークのレッスンを通してこのようなパターン化した自分の反応(くせ)を知り、そしてそれをやめる訓練をしていくことで徐々に体の力みや痛みは改善されました。その後無事に大学へ進学しさらにヴァイオリン漬けの毎日を送りますが、そこで学ぶことをより深く理解するのにテクニークはとても助けになりました。

卒業が近づくと、将来はヴァイオリンの演奏や教えることを生業として、さらにできる限り長く演奏を続けていきたい、そのためにはアレクサンダーテクニークに精通しているヴァイオリニストの先生のもとで学ぶ必要があるなと考えるようになりました。
そして幸運にも、アレクサンダーの発祥地であるイギリスの音楽大学にそのような教授がいると分かり、留学がかないました。(もっと詳しいいきさつを書き始めると長くなってしまいそうなので、いつか機会があれば...)


ここでの経験を経てヴァイオリンを弾くことがようやく楽しいと思えるようになり、尽きることのない悩みや問題に向き合うときも、身体と思考の両方の面から納得しながら進んでいく面白さを知りました。
その甲斐あって、現在にいたるまでは大きな問題や故障なく演奏を続けられています。

私にとってはヴァイオリンをきっかけに始めたアレクサンダーテクニークですが、自分の使い方を根本的に見直すことで健康面では疲れにくくなったり代謝が良くなったり、精神面でも人間関係や自分自身と向き合うことが以前よりも良い方向に変化していることを感じます。


そしてこの経験から、自分もテクニーク教師になることを決意しました。同じような悩みを持つ人や自分の持っている能力と可能性を最大に引き出したいと願う人の役に立つことができれば、これほど嬉しいことはないと思っています。

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